のれんの非償却論、高まる? ~のれんの会計処理とその理由をおさらい

2025年5月頃から、日経新聞にのれんの会計処理に関する記事がたびたび掲載されています。
日本の会計基準に準拠して財務諸表を作成する企業が、スタートアップ企業のM&Aを検討する際に、(買収後に想定される)のれんの償却費負担がその障害となっているという内容です。

日本の「企業結合に関する会計基準」は、のれんの会計処理を次のように定めています。

32.のれんは、資産に計上し、20年以内のその効果の及ぶ期間にわたって、定額法その他の合理的な方法により規則的に償却する。
47.のれんは無形固定資産の区分に表示し、のれんの当期償却額は販売費及び一般管理費の区分に表示する。

のれんは「固定資産の減損に係る会計基準」の適用対象資産となるため、規則的な償却を行ったうえで減損処理も行われます(「固定資産の減損に係る会計基準」二 8)。

この点、スタートアップ関連団体等が、ASBJの運営母体である財務会計基準機構(FASF)にテーマ受付表を提出し、次の2点の検討を要望したようです。

  1. のれんの償却と非償却の選択制を要望する
  2. のれんの償却費の計上区分を営業外費用もしくは特別損失とすることを要望する
    (1.よりも短期の措置として要望)
某社経理部長

のれんの償却費は販売費及び一般管理費扱いだから、営業利益へのインパクトがあるってわけだね。

内閣府の規制改革推進会議から公表された「規制改革推進に関する答申(2025年5月28日)」にも同様の内容が盛り込まれており、次の記述が見られます。

『内閣府及び経済産業省は、我が国会計基準におけるのれんの会計処理の在り方に関し、ASBJにおいて、スタートアップに係るM&Aを促進する観点から検討が行われるようスタートアップ関係者からFASFに対して提案がなされることについて、フォローする。』

某社経理部長

この「フォロー」は、「インスタをフォローしてね♪」という時の「フォロー」ではないだろうね…。

IFRSでは、のれんを非償却とし(減損の兆候の有無に関わらず)毎期減損テストを行う方法が採られています。

某社経理部長

2004年までは国際会計基準でものれんを償却していたけどね。

のれんの償却・非償却は以前から議論が繰り返されてきたテーマです。
2022年頃にもIASBでのれん償却を再導入すべきかについて議論が行われていますが、現行の方法(非償却で減損のみのアプローチ)を維持する決定がなされています。

某社経理部長

IFRS同様の厳格な減損テストを毎期行うとなれば、経理担当者の実務負担は相当増えるだろうな~。
個人的には、規則的に償却するほうが気楽かも。

日本の「企業結合に関する会計基準」がのれんを規則的に償却する方法を採用した理由は、その「結論の背景」の中で詳細に述べられています。その内容を要約すれば、次のとおりです。

【規則的に償却する方法の優位な点】

  • 規則的に償却する方法によれば、企業結合の成果である収益と、その対価の一部を構成する投資消去差額の償却という費用の対応が可能になる。
  • のれんは投資原価の一部であることに鑑みれば、規則的に償却する方法は、投資原価を超えて回収された超過額を企業にとっての利益とみる考え方とも首尾一貫する。
  • のれんの効果の及ぶ期間や減価パターンを合理的に予測できないという意見もあるが、減価した額を継続的に把握することは困難かつ煩雑であると考えられるため、ある年度に減価が全く認識されない可能性がある方法よりも、一定期間にわたり規則的に償却を行う方法が合理的と考えられる。
  • のれんには減価しない部分があることも考えられるが、その部分だけを合理的に分離することは困難であり、分離不能な部分を含め規則的に償却する方法には一定の合理性があると考えられる。

【非償却とし減損処理を行う方法で懸念される点】

  • のれんが超過収益力を表すとすれば、通常は競争の進展によってその価値が減価すると考えられる。のれんを非償却とすると、減価の過程を無視することになる。
  • 企業結合により生じたのれんは時間の経過とともに自己創設のれんに入れ替わっている可能性がある。のれんを非償却とすると、実質的には自己創設のれんを資産計上することになってしまう。
  • 減損処理を実施するには、のれんの価値の評価方法を確立する必要があるが、実務上の課題が多い。

【両者の選択適用を認めない理由】
 2つの方法の選択適用は、利益操作の手段として用いられる可能性がある。

某社経理部長

なるほど~。ごもっとも…。
この長い文章を練るのも大変な作業だっただろうね。

この議論には賛否両論があると考えられますが、仮に会計処理を見直すことになる場合、関連する会計基準の改訂作業が相当大変になることは間違いありません。