新設された「中堅企業」とは?

一般用語の顔をした専門用語

言葉の意味は一つに定まるものではありません。
特に、一般用語としての意味と専門用語としての意味が異なる場合には、注意が必要です。
会計・税務や法律の分野では、こうしたケースがいくつも見受けられます。

たとえば、「関係会社」。
日常生活において「関係会社」と言った場合、資本関係はないものの頻繁に取引を行う外注先や下請け先などを指すこともあります。
一方、会計の分野における「関係会社」とは、「親会社、子会社及び関連会社並びに財務諸表提出会社が他の会社等の関連会社である場合における当該他の会社等」と定義されており(財規8条8項)、一般用語での意味とは異なります。

某社経理部長

日常生活では「関係会社」と「関連会社」をほぼ同じ意味で使うこともあるけれど、会計の分野では「関係会社」と「関連会社」は意味が違って、「関係会社」のほうが広い概念だよな。

「大会社」という用語もこの類です。
日常生活では、漠然と大きい会社をイメージして、「大会社」と表現する場合があります。
一方、会社法上は、「大会社」は次のいずれかに該当する株式会社と定義されています(会社法2条6号)。
・最終事業年度に係る貸借対照表において、資本金として計上した額が5億円以上
・最終事業年度に係る貸借対照表において、負債の部の合計額が200億円以上

某社経理部長

「〇〇くんのお父さんは大会社の社長なんだよ」という子どもに、
「いや、あの会社の資本金は5億円未満だから、大会社じゃないぞ!」と反論するのはナンセンスってもんだ。

「中堅企業」とは?

そんなややこしい用語のニューフェイスが「中堅企業」です。
令和6年に改正された産業競争力強化法では、「従業員2000人以下の企業(中小企業を除く)」を「中堅企業」と新たに定義しています。
経済産業省は、「中堅企業」を地域経済を牽引する存在と捉え、その成長を促進するべく様々な支援に乗り出しています。
たとえば賃上げ促進税制においては「中堅企業」枠が創設され、大企業よりも優遇されるようになります。

一方、一般用語として「中堅」という言葉を用いるシーンを思い浮かべると、シンプルに「規模が中程度の」という意味で使うこともあるものの、「ある程度の経験や歴史を積んだ」という意味合いを含めて用いることもあるでしょう。

某社経理部長

「中堅社員」っていう言い回しには、そういう意味合いがあるね。
「中堅企業」と聞くと、「従業員数が中規模の企業」というよりも、「それなりの歴史があって、売上などが中規模の企業」というイメージを持つ人も多いかな。

「中堅企業」という新たな専門用語は認知度がまだ低い一方で、一般用語としての「中堅企業」は広く使われていると考えられます。
会話の中でこの用語が登場した際には、専門用語と一般用語のどちらの意味で使っているのか、確認する必要がありそうです。

某社経理部長

お互いが同じ土俵で会話しているか確認してからコミュニケーションしないと、混乱のもとだぞ!