「後発事象に関する会計基準(案)」…その概要は?
2025年7月、ASBJより「後発事象に関する会計基準(案)」などが公表されました。
これまで、後発事象については包括的な会計基準がなく、日本公認会計士協会による監査基準報告書560実務指針第1号「後発事象に関する監査上の取扱い(※)(以下、監基報560実1)」に基づく実務が行われてきました(※かつての監査・保証実務委員会報告第76号)。
この点、日本公認会計士協会が公表した実務指針等のうち会計に関するものをASBJに移管するプロジェクトが、2024年以降行われています。移管プロジェクトにより、会計に関する内容のみを扱う実務指針等はASBJへ移管済みです。

引っ越した会計基準が「移管指針」だね。
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しかし、監基報560実1には、会計に関する内容と監査に関する内容が含まれることから、そのままASBJへ移管することはできません。
そのため、監基報560実1を会計に関する内容と監査に関する内容に切り分け、会計に関する内容のうち必要な箇所を新たな定めに置き換えてASBJに移管する方針で、後発事象に関する会計基準の開発が行われてきました。この公開草案が上述の「後発事象に関する会計基準(案)」です。
監基報560実1は、後発事象の定義を、
「後発事象とは、決算日後に発生した会社の財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況に影響を及ぼす会計事象をいい、このうち、監査対象となる後発事象は、監査報告書日までに発生した後発事象のことをいう。」
としていました。

監基報560実1は監査上の取扱いに係る資料だから、監査する側の観点で定義していたんだね。
しかし、会計基準の定めは、財務諸表の監査が行われることを前提としていません。また、そもそも、財務諸表の作成責任は企業(の経営者)にあるため、監査の観点からではなく、企業の観点から後発事象を定義すべきです。
そこで、「後発事象に関する会計基準(案)」では、後発事象の新たな定義を
「決算日後に発生した企業の財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況に影響を及ぼす会計事象のうち、財務諸表の公表の承認日までに発生した会計事象をいう。 」
とすることが提案されています。
なお、監基報560実1では、
「修正後発事象が会社法上の計算書類等に対する監査報告書日後に発生した場合、金融商品取引法の財務諸表において当該修正後発事象を開示後発事象に準じて取り扱う」
という特例的な取扱いが定められています。
この取扱いに関しては、以前から議論がありますが、すぐに抜本的な見直しを行うことは困難と判断されたようです。
公表された「後発事象に関する会計基準(案)」では、この取扱いを基本的には踏襲し、抜本的な見直しを行うか否かについては、基準公表後に検討を行うことが提案されています。

「パンドラの箱」の荷物は、ひとまずそのまま持って引っ越しする予定ってことか。
この取扱いは、会社法と金商法の二元的な開示制度があることに起因するわけだから、荷ほどきが大変そうだなあ。